Dogra Magra (18) (a novel by Kyusaku Yumeno in 1935)


『ドグラ・マグラ』夢野久作(18)

「ハア。ではその行方不明になられた正木先生は、どうしてこの大学に来られるようになったのですか」
「それはかような仔細です」
 と言ううちに若林博士は、出しかけていた時計を又ポケットの中に落し込んだ。弱々しい咳払いを一つして話をつづけた。
「ちょうど斎藤先生の葬儀の式場に、正木先生がどこからともなく飄然と参列しに来られたのです。多分、新聞の広告を見られたものと思われますが……それを松原総長が、葬式の済んだ後で捉まえまして、その場で斎藤先生の後任を押付けてしまったものです。これは非常な異式だったのですが、あれ程に人格の高かった斎藤先生の遺志を、外ならぬ総長が取次だのですから、誰一人として総長のかような遣り方を、異様に思う者はありませんでした。かえって感激の拍手をもって迎えられたくらいです」
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参考として大正時代のお葬式の写真を何枚か見たけど、ネット上ではそんなに資料が見つからないし、地方によっても風習が違うかもしれないし、やっぱりちょっと検索しただけでは細部は良く分からない。ひとつ新たに知ったのは、白い喪服が主流の時代もあったということだ。明治時代に皇室の葬儀をきっかけに黒い喪服が増えてきて、第二次世界大戦時に黒が広く浸透したらしいです。あと、明治・大正初め頃までは遺影を飾る習慣はなくて、著名人とかお金のある人は代わりに葬儀写真集というものを作ることがあったらしいです。生前の元気な時の様子から死の床、お葬式の様子まで、時系列で記録に残してあるという。実際に手にとって見てみたい。