『ドグラ・マグラ』夢野久作(39)
―けれども母が一所懸命で、父の行衛を探しているらしい事は、僕にもよく判りました。僕が四ツか五ツの時だったと思いますが、母と一緒に東京のどこかの大きな停車場から汽車に乗って長い事行くと、今度は馬車に乗って、田圃の中や、山の間の広い道を、どこまでもどこまでも行った事がありました。一度眠ってから眼を醒ましたら、まだ馬車に乗っていた事を記憶えています。そうして夕方、真暗になってから或町の宿屋へ着きました。
『ドグラ・マグラ』夢野久作(39)
―けれども母が一所懸命で、父の行衛を探しているらしい事は、僕にもよく判りました。僕が四ツか五ツの時だったと思いますが、母と一緒に東京のどこかの大きな停車場から汽車に乗って長い事行くと、今度は馬車に乗って、田圃の中や、山の間の広い道を、どこまでもどこまでも行った事がありました。一度眠ってから眼を醒ましたら、まだ馬車に乗っていた事を記憶えています。そうして夕方、真暗になってから或町の宿屋へ着きました。