Dogra Magra (43) (a novel by Kyusaku Yumeno in 1935)

『ドグラ・マグラ』夢野久作(43)

―それに又、僕は小さい時から方々を引越していたせいか、友達が些いのです。こっちへ来ましても学校友達はあまり出来ませんでしたが、その中に中学の四年になりますと、すぐに一所懸命の思いをして、福岡の六本松の高等学校へ這入りましたら、空気がトテモ綺麗で見晴しが素敵なので嬉しくて嬉しくて堪りませんでした……エエ……そんなに早く試験を受けましたのは直方が嫌いだったからでもありますけど、ホントの事を云いますと、早く大学が卒業したかったんです。そうして母と約束していた父の話を出来るだけ早く聞いてみたいような気持がして仕様がなかったのです……母にはそんな事は云いませんでしたけれども……中学へ入る時もそうだったのです。何故っていうわけはありませんでしたけども……そうしてやっと文科の二年になったばかしのところです(赤面、暗涙)。

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