Dogra Magra (10) (a novel by Kyusaku Yumeno in 1935)

『ドグラ・マグラ』夢野久作

九州帝国大学、医学部、精神病科本館というのは、最前の浴場を含んだ青ペンキ塗、二階建の木造洋館であった。
その中央を貫く長い廊下を、今しがた来た花畑添いの外廊下づたいに、一直線に引返して、向う側に行抜けると、監獄の入口かと思われる物々しい、鉄張りの扉に行き当った……と思ううちにその扉は、どこからかこっちを覗いているらしい番人の手でゴロゴロと一方に引き開いて、二人は暗い、ガランとした玄関に出た。
その玄関の扉はピッタリと閉め切ってあったが多分まだ朝が早いせいであったろう。その扉の上の明窓から洩れ込んで来る、仄青い光線をたよりに、両側に二つ並んでいる急な階段の向って左側を、ゴトンゴトンと登り詰めて右に折れると、今度はステキに明るい南向きの廊下になって、右側に「実験室」とか「図書室」とかいう木札をかけた、いくつもの室が並んでいる。その廊下の突当りに「出入厳禁……医学部長」と筆太に書いた白紙を貼り附けた茶褐色の扉が見えた。

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