Dogra Magra (9) (a novel by Kyusaku Yumeno in 1935)

『ドグラ・マグラ』夢野久作

「……アッ……お兄さまッ……どうしてここにッ……」
と魂消るように叫びつつ身を起した。素跣足のまま寝台から飛び降りて、裾もあらわに私に縋り付こうとした。
私は仰天した。無意識の裡にその手を払い除けた。思わず二三歩飛び退いて睨み付けた……スッカリ面喰ってしまいながら……。
……すると、その瞬間に少女も立ち止まった。両手をさし伸べたまま電気に打たれたように固くなった。顔色が真青になって、唇の色まで無くなった……と見るうちに、眼を一パイに見開いて、私の顔を凝視めながら、よろよろと、うしろに退って寝台の上に両手を支いた。唇をワナワナと震わせて、なおも一心に私の顔を見た。
それから少女は若林博士の顔と、部屋の中の様子を恐る恐る見廻わしていた……が、そのうちに、その両方の眼にキラキラと光る涙を一パイに溜めた。グッタリとうなだれて、石の床の上に崩折れ座りつつ、白い患者服の袖を顔に当てたと思うと、ワッと声を立てながら、寝台の上に泣き伏してしまった。

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