Dogra Magra (13) -a novel by Kyusaku Yumeno in 1935

『ドグラ・マグラ』夢野久作(13)

その間に若林博士はグルリと大卓子をまわって、私の向側の大きな廻転椅子の上に座った。最前あの七号室で見た通りの恰好に、小さくなって曲り込んだのであったが、今度は外套を脱いでいるためにモーニング姿の両手と両脚が、露わに細長く折れ曲っている間へ、長い頸部と、細長い胴体とがグズグズと縮み込んで行くのがよく見えた。そうしてそのまん中に、顔だけが旧の通りの大きさで据わっているので、全体の感じが何となく妖怪じみてしまった。たとえば大きな、蒼白い人間の顔を持った大蜘蛛が、その背後の大暖炉の中からタッタ今、私を餌食にすべく、モーニングコートを着て匐い出して来たような感じに変ってしまったのであった。

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