Dogra Magra (28) (a novel by Kyusaku Yumeno in 1935)

『ドグラ・マグラ』夢野久作(28)

この解放治療場を取巻いておりまする赤煉瓦の塀は、高さが一丈五尺。これに囲まれました四角い平地は全部この地方特有の真白い石英質の砂でございますから、清浄この上もありませぬ。真中に桐の木が五本ほど、黄色い枯れ葉を一パイにつけて立っております。
(中略)
治療場の入口は、東側の病室に近いところにただ一つ開いておりまして、便所への通路をかねておりますが、その入口板戸の横に切り開けられた小さな横長い穴から、黒い制服制帽の人相の悪い巨漢が、御覧のとおり朝から晩まで、冷たい眼付で場内を覗いているところを御覧になりますると、この四角い解放治療場の全体が、さながらに緑の波の中に据えられた巨大な魔術の箱みたように感じられましょう。
この魔術の箱の底に敷かれました白い砂が、一面に真青な空の光を受けて、キラキラと輝いております上を、黒い人影が、立ったり、座ったりして動いております。一人……二人……三人……四人……五人……六人……都合十人おります。

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