Dogra Magra (17) (a novel by Kyusaku Yumeno in 1935)

『ドグラ・マグラ』夢野久作(17)

「……そうです。斎藤先生は変死をされたのです。斎藤先生は昨大正十四年の十月十八日……すなわち変死される前の日の午後五時ごろに、平生のとおり仕事を片づけて、医局の連中に二三の用務を頼んで、この部屋を出られたのですが、それっきり筥崎、網屋町の自宅には帰られませんでした。そうしてそのあくる朝早く、筥崎水族館裏手の海岸に溺死体となって浮き上っておられたのです。発見者は水族館の掃除女でしたが、急報によって警察当局や、わたしどもが駈け付けまして調査いたしました結果、多量に飲酒しておられたことが判明いたしましたので、たぶん、自宅へお帰りになる途中で、だれかきわめて懇意な人に出会って、久方ぶりに脱線された結果、帰り道を間違えて、彼処の石垣の上から落ちられたものであろう……ということになっております」

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