『ドグラ・マグラ』夢野久作(14)
キチガイ地獄外道祭文――一名、狂人の暗黒時代――
墺国理学博士
独国哲学博士 面黒楼万児 作歌
仏国文学博士
▼ああア――アア――あああ。右や左の御方様へ。旦那御新造、紳士や淑女、お年寄がた、お若いお方。お立ち会い衆の皆さん諸君。トントその後は御無沙汰ばっかり。なぞと云うたらビックリなさる。なさる筈だよ三千世界が。出来ぬ前から御無沙汰続きじゃ。きょうが初めてこの道傍に。まかり出でたるキチガイ坊主……スカラカ、チャカポコ。チャカポコチャカポコ…………サアサ寄った寄った。寄ってみてくんなれ。聞いてもくんなれ。話の種だよ。お金は要らない。ホンマの無代償だよ。こちらへ寄ったり。押してはいけない。チャカポコチャカポコ……
……サッサ来た来た。来て見てビックリ……スチャラカ、チャカポコ。チャチャラカ、チャカポコ……
▼ア――あ――。まかり出でたるキチガイ坊主じゃ。背丈が五尺と一寸そこらで。年の頃なら三十五六の。それが頭がクルクル坊主じゃ。眼玉落ち込み歯は総入歯で。痩せた肋骨が洗濯板なる。着ている布子が畑の案山子よ。足に引きずる草履と見たれば。泥で固めたカチカチ山だよ。まるで狸の泥舟まがいじゃ。乞食まがいのケッタイ坊主が。流れ渡って来た国々の。風に晒され天日に焼かれて。きょうもおんなじ青天井だよ。道のほとりに鞄を拡げて。スカラカ、チャカポコ外聞晒す。曰く因縁、故事、来歴をば。たたく木魚に尋ねてみたら……スカラカ、チャカポコ。チャカポコチャカポコ……