Dogra Magra (7) (a novel by Kyusaku Yumeno in 1935)

『ドグラ・マグラ』夢野久作

その部屋はかなり大きい、明るい浴室であった。向うの窓際に在る石造の浴槽から湧出す水蒸気が三方の硝子窓一面にキラキラと滴たり流れていた。その中で三人の頬ぺたの赤い看護婦たちが、三人とも揃いのマン丸い赤い腕と、赤い脚を高々とマクリ出すと、イキナリ私を引っ捉えてクルクルと丸裸体にして、浴槽の中に追い込んだ。そうして良い加減、暖たまったところで立ち上るとすぐに、私を流し場の板片の上に引っぱり出して、前後左右から冷めたい石鹸とスポンジを押し付けながら、遠慮会釈もなくゴシゴシとコスリ廻した。それからダシヌケに私の頭を押え付けると、ハダカの石鹸をコスリ付けて泡沫を山のように盛り上げながら、女とは思えない乱暴さで無茶苦茶に引っ掻きまわしたあとから、断りもなしにザブザブと熱い湯を引っかけて、眼も口も開けられないようにしてしまうと、又も、有無を云わさず私の両手を引っ立てて、
「コチラですよ」
と金切声で命令しながら、モウ一度、浴槽の中へ追い込んだ。そのやり方の乱暴なこと……もしかしたら今朝ほど私に食事を持って来て、非道い目に会わされた看護婦が、三人の中に交っていて、復讐を取っているのではないかと思われる位であったが、なおよく気を付けてみると、それが、毎日毎日キ印を扱い慣れている扱いぶりのようにも思えるので、私はスッカリ悲観させられてしまった。

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