Dogra Magra (4) (a novel by Kyusaku Yumeno in 1935)

『ドグラ・マグラ』夢野久作

その小男は頭をクルクル坊主の五分刈にして、黒い八の字髭をピンと生やして、白い詰襟の上衣に黒ズボン、古靴で作ったスリッパという見慣れない扮装をしていた。四角い黒革の手提鞄と、薄汚ない畳椅子を左右の手に提げていたが、あとから這入って来た看護婦が、部屋の中央に湯気の立つボール鉢を置くと、その横に活溌な態度で畳椅子を拡げた。それから黒い手提鞄を椅子の横に置いて、パッと拡げると、その中にゴチャゴチャに投げ込んであった理髪用の鋏や、ブラシを葢の上に掴み出しながら、私を見てヒョッコリとお辞儀をした。「ササ、どうぞ」という風に……。すると若林博士も籐椅子を寝台の枕元に引き寄せながら、私に向って「サア、どうぞ」というような眼くばせをした。
 ……さてはここで頭を刈らせられるのだな……と私は思った。だから素跣足のまま寝台を降りて畳椅子の上に乗っかると、殆ど同時に八字鬚の小男が、白い布片をパッと私の周囲に引っかけた。それから熱湯で絞ったタオルを私の頭にグルグルと巻付けてシッカリと押付けながら若林博士を振返った。
「この前の通りの刈方で、およろしいので……」

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