Dogra Magra (3) (a novel by Kyusaku Yumeno in 1935)

『ドグラ・マグラ』夢野久作

……つまりその青年が、滅びかかっている自分の一家の血統を繋ぎ止めるべく、自分を恋い慕っている美しい従妹と結婚式を挙げる事になりました、その前の晩の夜半過ぎに、その青年が、思いもかけぬ夢中遊行を起しまして、その少女を絞殺してしまいました。そうしてその少女の屍体を眼の前に横たえながら、冷静な態度で紙を拡げて写生をしていた……という、非常に特異な、不可思議な事実が曝露されまして、大評判になってからの事で御座います……が……同時に、その青年の属する一家の血統を、そんなにまで悲惨な状態に陥れてしまったのが、何の目的であったかという事実とその犯人が何人であるかという、この二つの根本問題だけは、今日までも依然として不明のままになっているという……どこまで奇怪、深刻を極めているか判然らない事件で御座います。

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