Dogra Magra (2) (a novel by Kyusaku Yumeno in 1935)

『ドグラ・マグラ』夢野久作

しかし巨大な紳士は、そんな事を些しも気にかけていないらしかった。極めて冷静な態度で、一とわたり私の全身を検分し終ると、今度は眼をあげて、部屋の中の様子をソロソロと見まわし初めた。その青白く曇った視線が、部屋の中を隅から隅まで横切って行く時、私は何故という事なしに、今朝眼を醒ましてからの浅ましい所業を、一つ残らず看破られているような気がして、一層身体を縮み込ませた。……この気味の悪い紳士は一体、何の用事があって私の処へ来たのであろう……と、心の底で恐れ惑いながら……。

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