Dogra Magra (32) (a novel by Kyusaku Yumeno in 1935)

『ドグラ・マグラ』夢野久作(32)

右手に見えております混凝土の暗い階段は、この部屋が地下室であることを示しておりますので、正面に並んだ白ペンキ塗の十数個の大きな抽斗は、皆、屍体の容器なのでございます。すなわちこの部屋は、九大医学部長の責任管理の下にある屍体冷蔵室で、真夏の日中といえども、肌膚が粟立つばかりの低温を保っているのでありますが、ことにただ今は深夜のこととて、その気味の悪い静けさは、死人の呼吸も聞えるかと疑われるくらい……。

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