Dogra Magra (33) (a novel by Kyusaku Yumeno in 1935)

『ドグラ・マグラ』夢野久作(33)

大正十五年四月二十七日夜の、九大法医学部、解剖室には、かくして二個の少女の肉体が並べられた事になります。美しく蘇りかけている少女と、醜くく強直している少女と……中にも解剖台上に紅友禅を引きはえました少女の肉体は、ほんの暫くの間に著しく血色を回復しておりまして、麻酔をかけられたままに細々と呼吸しはじめている、そのふくよかな胸の高低が見える位になっております。その異常な平和さ、なまめかしさ……
(中略)
そのうちに脈を取っていた少女の手を投げ出して、時計をポケットに納めました若林博士は、その少女の身体をそっと抱え上げて、部屋の隅に横たえてある寝棺の蓋の上に寝かしました。そうしてその代りに四一四号の少女の強直屍体を解剖台の上に抱え上げて、凹字型の古びた木枕を頭部に当てがいますと、大きな銀色の鋏を取上げて、全身を巻立てている繃帯をブツブツと截り開く片端から、取除いて行きましたが……

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