お盆に山吹色の菊を買ってきた。薄暗い部屋の中で見ると、世紀末ウィーンの退廃的な雰囲気を漂わせているような気がしてスケッチブックに描いたら、なんだかベッタリのっぺりした感じで、むしろ大正時代の見世物小屋の絵というか浅草オペラを思わせた。というより、その時代の舞踏家、澤モリノの写真を思い出した。
これが澤モリノの写真(『大正昭和美人図鑑』小針侑起 河出書房新社)。
本によると、1889年に群馬県で生まれ、1933年に朝鮮の平壌で没とある。「浅草オペラの全盛時代、人気絶頂のモリノのブロマイドは飛ぶように売れ、ペラゴロたちの机上を飾った」と書いてある。
この写真には不思議な魅力があって、背景の漆黒がまずエキゾチックだ。珍しい異国の植物があるキューガーデンの黒、ロンドンで一番古いコーヒーハウスの黒、19世紀の探検家がアフリカの奥地で記念撮影したような黒、などである。藤の長椅子で上半身を起こすモリノを浮き上がらせる光には、ヨーロッパの海辺の街の写真館みたいな空気がある。チャーミングであると同時にどこか少しいかがわしさがある表情(アメリカ出身だと詐称していたという逸話もあることだし)、舶来品らしきじゃらじゃら着けのネックレスやスカートの変わった装飾にも見入ってしまう。
夜はベランダで線香花火をした。20本入って200円位の中国製のもの。久しぶりに花火の火薬の匂いを嗅いだ。形が菊みたいだった。


