Dogra Magra (75) (a novel by Kyusaku Yumeno in 1935)

『ドグラ・マグラ』夢野久作(75)

私のツイ鼻の先に奇妙な人間が居る……最前から、若林博士が腰かけているものとばかり思い込んでいた、大卓子の向うの肘掛廻転椅子の上に、若林博士の姿は影も形もなく消え失せてしまって、その代りに、白い診察服を着た、小さな骸骨じみた男が、私と向い合いになって、チョコナンと座っている。
 それは頭をクルクル坊主に刈った……眉毛をツルツルに剃り落した……全体に赤黒く日に焦けた五十恰好の紳士であるが、本当はモット若いようにも思える……高い鼻の上に大きな縁無しの鼻眼鏡をかけて……大きなへの字型の唇に、火を点つけたばかりの葉巻をギュッと啣くわえ込んで、両腕を高々と胸の上に組んで反そりかえっている……骸骨ソックリの小男……それが私と視線を合わせると、悠々と葉巻を右手に取りながら、真白な歯を一パイに剥むき出してクワッと笑った。
私は飛び上った。
「ワッ……正木先生……」

(引用は青空文庫より)

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