『ドグラ・マグラ』夢野久作(72)
……ああ愉快だ。こうやって自殺の前夜に、宇宙万有をオヒャラかした気持ちで遺言書を書いて行く。書きくたびれるとスリッパのまま、廻転椅子の上に座り込んで、膝を抱えながらプカリプカリと、ウルトラマリンや、ガムボージ色の煙を吐き出す。……そうするとその煙が、朝雲、夕雲の棚引たなびくように、ユラリユラリと高く高く天井を眼がけて渦巻き昇って、やがて一定の高さまで来ると、水面に浮く油のようにユルリユルリと散り拡がって、霊あるものの如く結ぼれつ解けつ、悲しそうに、又は嬉しそうに、とりどり様々の非幾何学的な曲線を描きあらわしつつ薄れ薄れて消えて行く。それを大きな廻転椅子の中からボンヤリと見上げている、小さな骸骨みたような吾輩の姿は、さながらにアラビアンナイトに出て来る魔法使いをそのままだろう…………ああ睡い。ウイスキーが利いたそうな。ムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャ……窓の外は星だらけだ。
(引用は青空文庫より)
